誘惑男子①~アブノーマルに抱きしめて~
さまよえる悪霊に自らの行動範囲の限界をはっきりと言い渡すと、彩はガランと人影のないエレベーターに滑り込んだ。
……うん…?
まだ背中によからぬ違和感を感じる。
何気に壁側を振り返った彩は、
き、き、き、桐谷敬ーーーっ!!
そっちかぁーっ?!!
今にも飛び出しそうな心臓を両手で押さえ、何もなかった!何も見なかった!とばかりに、対角線上の敬からクルリと背を向けた。
ヤバヤバヤバヤバヤバ~!!
「くくっ…、くくくくっ…」
密室に響く微かな漏れ笑い。
まるで、恐怖におののくホラー映画のヒロインのように、彩は小さな四角い箱の片隅にへばりついた。
大丈夫、メガネもしてる。マスクもしてる。わかりっこない。大丈夫、大丈夫…
「それでバレてないつもりですか?」
えっ……
敬の発した一言に、彩の心臓はマイナス2度に凍りつく。