オレンジどうろ
すーちゃんを背中に背負い、先輩の上を歩いた。そりゃあ、悪意を込めて踏みにじってやりましたよ。
後夜祭会場に戻り、三上さんにカバンを持ってきてもらった。
心配そうな顔をする彼女に「大丈夫。少し疲れて寝てるだけだから」そう言って、先生にすーちゃんの住所をもらった。
***
片手に住所が書かれた紙を持ちながら道を歩く。
それは知った道だった。
“すーちゃん”と幼い俺らがここで交わした約束を“すーちゃん”は覚えているのかな?
太陽は沈み、月が俺らを見守っている。
そんな中、すーちゃんの家に着いた。
俺は門の前で立ち尽くしてしまった。
なぜなら
「なんですーちゃん家が“すーちゃん”の家なの?」
その家は、どこからどう見ても、俺が小さい頃よく遊びに行ったあの家で。
でも表札には『小野』ではなく『松本』と書いてあって。
俺の頭は、城学に入学してから混乱しっぱなしで、何がなんだか分からなくて。
でも、そんな気持ちの中でも少し希望を抱く。
もしかしたら小野家のみんなが久しぶりに帰ってきた俺にドッキリを仕掛けたのかもしれない。このインターフォンを押したらクラッカーを持ったすーママとすーパパが出て来るんだ。それで「おかえり」って言ってくれたりするのかもしれない。
すーちゃんだって実は忘れたふりをしていただけで「いやー、ごめんって!ユウちゃんってば反応が面白いしっ」って笑ってネタバラしをするんだ。
考えだしたら、そんな甘い考えしか浮かばなくて。そうかもしれないと、期待してにやける。
きっと大掛かりなドッキリなんだ、そう信じてインターフォンを押した。
「どちらですかー?」
そんな声と共に出てきたのは30後半の知らない男性だった。
俺の都合のいい幻想は灰と化した。
「あ、いや、すーちゃ...スミレさんが少し過呼吸みたいになって、疲れて寝ちゃったみたいです」
戸惑いながらいちよう今日のことを話した。
男性はそっか、と呟き頭をかいた。
「うちの娘が迷惑かけたみたいだね。キミはスミレの友だちかい?」
その問いにはい、と答えた。
すーちゃんのお父さんは俺からすーちゃんを受け取り、静かに言った。
「この子はね、病気を持ってるんだよ」
まだ2カ月の付き合いのだが、病気を持ってるなんて初耳だし、そんな素振りも見たことなかった。