想 sougetu 月
「住宅情報?」

 川崎君はシイナの横に座ったとたん、テーブルの上に載っている情報誌を目ざとく見つけた。

「あ、ん。一人暮らししようと思って」
「へー、アンタに出来んの?」

 ハッキリと言われ、苦笑してしまう。

 川崎君は地方からこの大学に入学して、それからずっとひとり暮らしをしている。

 そんなに頼りなさそうに見えるのだろうか?

「がんばってみるよ」
「……そっか。もう場所は決めたのか?」
「ううん、まだ。学校が終わってから探してるんだけど行ける場所にある不動産屋さんも限られているから」
「なるほど」

 足で回れる不動産屋さんとなると、駅周辺に限られてしまう。
 こうして情報誌を見ても目覚しい結果はない。

「で、予定はいつ?」
「出来れば年末くらいには引っ越したいと思ってる」
「あと3ヶ月くらいじゃねぇか。家族って言うか、例の男には手伝ってもらえねぇの?」
「ん、まだ斎にも内緒にしてるから」

 絶対年末に引っ越したいと思っているわけじゃないけど、契約は出来れば早めにしておきたい。
 理想としては誕生日の時に、住む場所をみんなに言えるのが一番いいんだけど……。

「休みの日、シイナのバイトが終わるまでなら車出してやろうか?」
「あ、それいい! 徹雄、そうしてあげてよ」
「え……、ええっ! で、でも、そんなの悪いから」
「気にしなくていい。シイナのバイトが終わるまでいつも暇だしな。柚原が嫌だって言うならしょうがねぇけど」
「あ……、うん。ホントに頼んでもいいのかな?」

 これが原因でシイナとケンカになっては嫌だ。

 それなら甘えるべきではないのだけど、実際に残された時間は少ない。
 1日に行ける場所も時間がこう少ないのでは限られてしまう。
 
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