想 sougetu 月
 レストランで出ているものよりずっと美味しいパエリアを一生懸命口に運ぶ。
 そんな私の隣で斎がどこかの高級フランス料理でも食べているような優雅さで食べていた。
 
 6人掛けの広いテーブル。
 それなのに斎は4人で食べている時と同じ場所に座るので、私と横並びで座ることになってしまう。

 2人だけの時くらい前に座ればいいのにとは思うのだけど、以前それを言って斎の機嫌が悪くなってしまい。
 それからはこうして並んでいるままだ。

「パエリアばかり食べないで、ちゃんとサラダも食え」
「ちゃんと食べてるよ」
「残さず食ったら明日はビシソワーズにしてやるから」

 ジャガイモの冷たいスープであるビシソワーズは私の一番の好物だ。
 
 小食の私は、些細な事ですぐに食べるのをやめてしまう。

 途中で何かしたとか、好きじゃないものが食卓にあってそれを食べたとか……。
 あまりの小食さに美鈴おばさんの手を煩わせたものだ。

 今は忙しい美鈴おばさんのに変わって、ほとんど斎が食事を作っている。

 私の好物はすべて把握済みだ。
 いいように転がされているような気がする。
 
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