想 sougetu 月
 必死になって食事を口に運んでいると、いつの間にか斎が食べ終わっていて私を見ていた。
 それに気づいたとたん、食べるペースが落ちて満腹感が湧き上がってくる。

 時々斎は監視するかのように、私が食べ終わるのをこうして黙って見てるのだ。

 すごく食べずらい。
 食べ終わっているんだから席を立ってテレビでも見てくれればいいのに……。

 斎を意識してドキドキと鼓動が早くなる。

 でも顔は赤くならない。
 もう何年も感情を隠すことに慣れている私は、早まる鼓動を無視して食べることに集中する。

 なんとか満腹感と戦いながら、最後のひと口を口に押し込む。
 これでやっと斎の監視下から逃れられることにほっとする。

「ごちそうさま」
「ああ」

 短い返事を聞いて、食べたお皿を持って立ち上がる。

「あ、今日は洗わなくていい。シンクに置いておけ」
「いいの?」
「ああ、明日の下ごしらえの準備するからな」
「ん……」

 最近、斎は優しい。
 まるで私の決心を知っているかのように私の決心と同じ時期から優しいのだ。

 だからって、優しくされて期待するようなことはない。
 もう、そんな時期はとっくに過ぎてしまった。

 私は斎に背中を向けて、そっと笑う。

 斎が私の想いに振り向くようなことはない。
 そんなことは自分がよく知ってる。

 それに斎には親密にしている女の子が側にいるらしい。

 ツキンと音を立てる胸の痛みを無視して、私はシンクに洗い物を置いた。
 
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