君がいるから
* * *
カツン コツン コツン
私が龍の血を受け継いでるだなんて、そんなのある筈がない。父さんと母さんの間に生まれて、学校に行って勉強して友達と他愛も無い話したり家に帰って家事をして、コウキと些細なことで喧嘩したりして――。そうやって、普通の毎日を送ってた。それなのに。
"龍の血を受け継ぐ……紅き力を持つ者"
(知らない……。この世界を救う力なんて微塵もないもの――私はっ――)
「あきなっ!」
「っ!!」
突然、間近で自身の名が聞こえ、我に返り閉じていた瞼が勢いよく開いて、あれから俯いていた顔を上げる。
「ア、ディル……さん」
「話かけても全然反応がないから。ごめんね、大きな声を出して驚かせてしまって」
苦笑するアディルさんの前で、笑い掛けることが出来ない。
「ごめんなさい」
「あきなが謝ることは何もないよ。そんなに悲しそうな顔しないで……君がそうだと俺も悲しくなる」
「すみません。いつもいつも、アディルさんには迷惑を掛けっぱなしですね」
「俺は自分がそうしたいからしてるだけ。あきなが気に病むことは何一つない。ただ……今、あきなが思ってること俺に言ってみて? 俺はいつでもあきなの味方だから、ね?」
優しさに溢れた言葉と声音にまた甘えようとする。
「――よく、分かりません。さっきギルスのお爺さんが言ったこと全部っ」
「俺も正直驚いてる。まさかあきなに"龍の血"が受け継がれてるなんて、聞かされるとは思ってもみなかった」
カッツン
2人分の靴音が一つ欠け、そしてもう一つの靴音も一歩前で止まる。
「信じられない。私は普通の何処にでもいる女子高生なんですよ? それなのに知らないうちに右も左も分からない世界に突然――突き放されたと思えば、こんな話……」
「…………」
「どうすれば帰れるんですか? どうしたら、元の生活にもどっ――」
続く筈だった言葉は切れ、頬に軽い衝撃と視界が突然遮られた。甘い香り。背中に布越しでも伝わってくる温もりと、耳元で聞こえる一定の鼓動が刻む音――。
息がしづらいと感じるくらいにきつく背中を押される。アディルさんの腕に包み込まれているのだと悟る。自然と身を委ね、アディルさんの背にそっと両手を添えて、次第に瞼を閉じた。