君がいるから
――どれくらいそうしていたんだろう。ほんの数分と言われればそう思え、それ以上と言われればそうなのかもしれない。
鳥の鳴き声が窓外から漏れ混ざり、それと共に歩廊を吹き抜けていく風の音がして、掠めていくのを身全てで感じる。おもむろに自身の腕が動き、布同士が擦れる微かな音と耳元で感じていた鼓動を離し、そっと瞼を開いた。
「すいません。もう、大丈夫です」
相手から完全に離れ切ったら、恥ずかしさがじわじわと湧き起こり、顔をまともに合わせられなくなる。
(何やってんだろう……アディルさんにあんな風に言ったって、困らせてしまうだけなのに)
「残念。もっとあきなを感じたかったのに、もう離れちゃうのか」
くいっと顎に指を添えられ上を向かされ、いつもの微笑みに加え甘ったるい声音を耳元で言われて、火が噴出しそうになるぐらいに顔が一気に熱を帯びた。突然の事に、慌てて後退し互いの距離を取る。
「なっ、ごっ誤解されるような言い方しないで下さいっ」
「誰に誤解されるの?」
「誰って、たまたま通りかかった人……とか」
「俺たち以外、誰もいないよ?」
きょろきょりょ辺りを見渡しても、確かに私達の他に人は見当たらない。だけど、今の今までの雰囲気は何処へ。
「いっ今はいないかもしれないですけど。万が一誰かに聞かれたり、約、1名にでも見られたりしてたら……やっややこしいと言いますか、何と言うか」
手も加え、無意味にせわしなく動かす。焦りのせいか、更に顔が熱くなっていく――。
「……ぷっ」
「え?」
「ぷっあっははははははっ」
突然の出来事に、数回瞬きを繰り返して目を丸くする。今、目の前にいるアディルさんが声を上げて笑っているから。
いつもの穏やかな表情じゃない、肩を震わせて無邪気に笑うアディルさんを初めて見る。
「あっはははっ。あーごめんっ突然声を上げて笑うなんてね」
「…………」
「あきなに、そんなにじっと見つめられると恥ずかしいな」
「……またそんなことを。私が恥ずかしいです。でも、アディルさんの」
「ん? 俺の?」
口元に手をあて、微かに声を漏らして次第に緩んだ頬のまま――。
「アディルさんのそんな風に笑う姿、初めて見ました」
そう口にして、私は満面の笑みを浮かべた。