君がいるから


 ふぅっと一息をついて腰に手を当て、アディルさんに抱きつくシェリーに視線を向けた騎士さん。

「ったく、どうして副団長の居場所が瞬時に分かるんだか。それからお前足が早すぎだ。俺の事も考えろよな」

「お前の足が遅すぎなんだよ。べーっだ」

「クソ餓鬼――後で覚えてろよ」

 シェリーは騎士さんにまで、思いっきり舌まで出して挑発。その彼女の態度に、さっきまで腰にあった両手の骨をボキボキと鳴らす騎士さん。

「俺に何か用なんじゃないのか? 急ぎなのか?」

 睨み合う二人に割って入ったアディルさんは、シェリーの腕をやんわりと外し立ち上がる。騎士さんはアディルさんが立ち上がるのを見て、背筋を伸ばして姿勢を正す。

「はっ。報告書の事でお話がありまして。それと例の盗賊の――」

 途中で言葉を区切り、何故か私の方へ視線を移される。不思議に思うも、騎士さんへ会釈。ふとアディルさんとも目が合ったけれど、数秒もしない内に騎士さんへ向けられていた。

「そうか。続きは執務室に戻ってから詳しく聞こう」

「はい」

「シェリー。また後でね」

「えー嫌だぁ」

「シェリー"いやだぁ~"なんてそんな気味が悪い声出したってな、副団長はお前の本性知ってんだよ」

「アディルにはあたしのことぜ~んぶ知っててもらいたいから、別にいいんだも~ん。べーっ」

「可愛げのない餓鬼だ」

 目の前で、騎士さんとシェリーの言い合いが繰り広げられていく。アディルさんがそんな2人の合間を抜けて、私の方へと歩み寄る。

「さっ部屋まで送るよ」

 おいで――っと背に手を添えられたけれど、逃れるように身体を後ろへ引く。

「大丈夫です! ここからは自分で覚えているので1人で戻れます」

「そうはいかないよ」

「本当に大丈夫ですよ? アディルさんのおかげで少し気分も落ち着いたので」

「ちょっとー!! また2人でそこで何してんのさっ」

 アディルさんの影に隠れて見えない前を確認しようと、そっと伺い見る。そこには想像通りの目を吊り上げているシェリーを、ガッシリと押さえている騎士さんが見えた。

「あきな」

「はい?」

 名を呼ばれて体勢を戻すと、頬が大きな掌に包まれる。

「そのまま真っ直ぐ部屋へ戻ってね。万が一でも城から出ないように。もし、また前のようにあきながいなくなったら、俺は――」


< 187 / 442 >

この作品をシェア

pagetop