君がいるから


 何も考えられない。鮮やかな紅い瞳の強い眼差しから――逃げ出せない。数回、親指で頬を撫でられたくすぐったさに瞬きを一度。

「じゃあ、また後で」

 微笑みを残して行くアディルさんが離れていくと共に、頬に添えられた手もそっと離れていく。温もりに包まれていた頬は微熱を持ち、晒されたことで撫でる風がひやりと感じる。

「…………」

 遠ざかっていく背を見据え続けてしまう。一歩一歩踏み出す度に、揺れ動く腰まである金の髪が陽の光に照らされてキラキラと輝く。

「シェリーも仕事に戻らないと、ジョアンさんに怒られるよ」

「うー……。分かった、戻る」

 クシャクシャっと頭を撫でられたシェリーは渋々そう言うも、その表情はどこか寂しそう。シェリーは騎士さんから体を開放されると、本当は離れたくないとでもいうようにアディルさんの腕に抱きつく。
 そして、アディルさんの腕に顔を埋めたシェリーは、ちらり私を見てフフンと鼻で笑い、思いっきり舌を出した。

(本当に……小さな子供だ)

 彼女の独占欲から来る全ての行動に、もう怒りを通り越して呆れてしまい、深くため息をついた。アディルさんもこちらへ振り返って手を振ってきたから、私も同じように手を振り返す。

「行くぞ」

「御意」

 シェリーは、アディルさんの腕をより抱きしめ、寄り添いながら歩み出した。

「アディル副団長をお借りしてしまって申し訳ありません。お気を付けてお部屋にお戻り下さい。それでは失礼します」

 騎士さんが私に丁寧に礼をするので、私も動作を真似て返す。私の方が、アディルさんを借りてしまっているようなもので、逆に申し訳なく思う。互いに目を合わせ、、騎士さんは笑顔を残してアディルさん達の後を追いかけて行った――。

「静かだなぁ……」

 1人きりなった所で、ぽつり呟く。差し込む陽の光が歩廊を明るく照らす窓外を見遣ると、大きな赤い月が私を見下ろすように空に浮かんでいた。

「龍の、血を、受け継ぐ者」

 眩しいくらいに光を放つ赤い月を、細め見つめる。事実かどうか、私には答えに行き着くなんて到底難しい。ただ、ギルスのお爺さんの声と言葉が、頭から離れてくれない。


 ――♪~♪♪――


「……歌?」


< 188 / 442 >

この作品をシェア

pagetop