君がいるから


 纏い発する見えない気が、辺りが一気に覆いつくされ、必然と肌が粟立つ。

「……お前、うざい、煩い。僕はお前に従えてるわけじゃない。僕は今お楽しみの途中なんだ」

(何、この人1人で何を喋ってるの? まるで誰かと対話してるような――)

 自分でも何を思ったのか、そっと横方にいる人物の姿を見上げる。見上げた先にある――その姿から目を逸らしたらいけない、何故かそう思った。
 私の視線に気づいた銀の瞳の視線が、ゆっくりと下り絡み合う。光を宿さない血に飢え、感情なんて何もない――銀の瞳。この瞳に全てを飲み込まれような感覚に陥り、背筋が大きく震えた。
 私は知ってる、この瞳と同じような、よく似た人を。闇の中へと引きずり込むような、この感覚を覚えがある。

「残念だけど、君との遊びはここまで。じゃあね」

 銀髪は私を見下ろしたまま言葉にし、ひらひら手を振り靴音を鳴らして、ひび割れた窓硝子を開きバルコニーへと出てしまう。

「待ちやがれ!! 逃げんのかよ!!」

 ギルは離れたところから大声で叫んだと同時に、銀髪に向かって素早く足を動かし突進してくる。銀髪はギルを一度見遣って鼻で笑い、手を左右に振り私達に背を向けたまま口端を上げた。

「ねぇー。そろそろ始まるよ」

 ドックンッ!!

 心臓の鼓動が激しく打ち、一瞬にして時が止まったような感覚に陥る。

「一緒に」

(まさか――)

「血の雨を」

(まさか――この人が)

「降らす時が」

 氷のように冷たい指先が顎に触れ、形に沿って滑りなぞる。実際に触れられているわけでもない筈なのに、あの時の夢が蘇り、それ以上聞くまいと固く瞼を閉じる。

「それじゃあ、またね」

 銀髪はバルコニーの手すりに軽々と飛び乗った後、一瞬にしてその姿は消え去った。

 ――これは夢なんかじゃない――

(夢なの)

 ――急がないと――

(……違う、違う)

 ――み~んな――

(現実になんて)

 ――死んじゃうよ――






「あきなっ!!」

 突然、目前に金の瞳が映り込み、目を丸くする。

「あきな、大丈夫?」

「ウィ……リカ……?」

「顔が真っ青。具合でも悪いか?」

「あ、えっと。違う……そうじゃなくて」

 ――死んじゃうよ――

 耳に今もあの言葉と声が残響として回る。断片的にあの忌まわしい夢もまた同じように――。


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