君がいるから
「くそっ逃げやがった!! あいつを仕留める絶好のチャンスだったのによっ」
バルコニーから消えたあの人を追って行こうとしたらしいギルは、悔しそう、それでいて自身に腹が立っている様子。でも、所々に傷を負っているギルは、足元がしっかりせずその場に座り込んでしまう。そこへ、ウィリカがギルの頭のてっぺんを目がけて、手をストンと真っ直ぐに落とす――いわゆるチョップ。
「いって!! ウィリカ、怪我人になんてことしやがんだ!!」
「馬鹿っ」
「あぁ!?」
「そんなに怪我して、何が仕留めるチャンスだ。馬鹿としか言いようが無い」
「俺様は馬鹿じゃねー」
「馬鹿だ。いや、大馬鹿野郎だね」
そう言うや否や、ウィリカはもう一度ギルの頭にチョップを振り下ろす。言い合いはしてるけど、緊張感がなくなったのか、2人はじゃれ合ってるようにも見える。ギルの怪我の具合から、そんなに深い傷を負ってはいないようで、胸を撫で下ろす。
ドックンッ ドクンッ ドックン!!
唐突に感じた左手の中指から震え動く感覚――鼓動に視線を落とす。
「赤い……光」
ドックンッッ!!
一際大きく波打った鼓動で赤い光の一点だけを見つめ、私の中で大きくなっていく己の声。
イカナキャ――イカナキャ、イカナキャ。アノ――ヒトガ――。
唇を一文字に結び、レイの体をあまり揺れ動かさないようにブレザーを脱ぎ床に敷く。そして、その上にレイをゆっくりと横たわらせた。
「レイ……ごめん。すぐ戻ってくるよ、だから待ってて」
今もなお苦しげに呼吸をするレイにそっと囁いた後、拳を握りしめ立ち上がり背筋を伸ばす。
「どうした、あきな。急に立ち上がって」
「ウィリカ、ごめん。私、行かなきゃいけないの、あの人の所へ」
「あの人って……あきな、行くって――」
「レイのこと、お願い!!!」
そう言い捨て地を蹴り、一気にその場から駆け出す。
「あきな!! 何処に行くんだ!?」
「おいっ女!! てめーも逃げんのかよ!!」
背後で叫ぶギルの声に耳を傾けず、ただ足を前へ前へと必死で突き動かせた――。