君がいるから
* * *
レイの元を離れて、どのくらい走り続けてるのか。呼ばれてる――そう感じている体が勝手に動く。私が目指す場所へ。衣服の胸元を、強く強く握りながら走り続ける。休まず走り息が切れて苦しいからじゃない。ずっとずっと――呼ばれてる声とは違う、頭の中で繰り返し聞こえてくる言葉のせい。
――そろそろ始まるよ――
――一緒に血の雨を降らす時が――
思い出したくもないのに。それをかき消そうと頭を左右に振るも何の意味もなさず、消えるどころかますます不安が増していく一方。胸騒ぎが治まることもなく、更に胸元を強く握った時。
(っ!!)
再び見えた、あの黒くて不吉な夢のビジョンが突然脳裏に過り、頭が強い痛みに襲われる。
「もう、やめて……。違う、違う、現実になんてならないっ。させない……うっ、ぃつ」
痛みで視界が揺れ頭を抑えたと同時に足が止まり、その痛みから徐々に全体が汗ばんでいく。城のエントランスのような場所へと行き着いたのに、城の玄関口である扉も見えているのに、中々動くことが出来ない。
「い……かなきゃ。こんな所で立ち、止まってなんて」
ふらつく頼りない足を、必死で前へと突き動かそうと自身を追い込む。
「ア……ディル、さん」
(お願いします――どうか無事で)
目前の大きな扉にやっとのことで辿り着き、扉に重い頭を預け呼吸を整ていると、向こう側から爆発音と交じって人々の叫び声、そして――耳を押さえたくなるような断末魔。それを耳にした時、この先で何が起こっているのか想像したくなくても、考えてしまう。扉の取っ手に少し震える手を添えて、この先に出なければアディルさん達に会うことは出来ない。一度固く瞼を閉じ、扉を引き開く――。
扉が開いたと同時に、風に混ざった焼け焦げた匂いや生臭い鉄の匂いに、顔を顰めながらも外へと踏み出す。外へと出た瞬間、瞼を薄く開き覚悟を決め顔を上げた目前の光景に、言葉を失い口元を掌で覆うと全身が震えた。
――目の前に広がる光景。私の足元に転がる無数の亡骸、高台にある城から見渡せる城下町は燃え盛る炎に包まれていた。