君がいるから
ゴホッ ゴホコホッ
喉がヒリヒリする。様々なものが燃える煙が空気中に交じり、走り息が上がってしまった喉に吸い込まれる酸素で息苦しい。細かい雨のせいで、土の匂いも鼻に付く。煙の中から出てくる影を目にして、シャルネイの騎士さん達とは異なる服装だと悟り、まだ倒壊していない建物と建物の間の影に身を潜め、その間に息を整える。
「はぁはぁ……よかった、気づかれてないみたい。はぁ、運動不足だな。はぁはぁ……急がなきゃいけないのに」
少し霞み見える視界で、影からそっと辺りの様子を伺う。
「今……なら行ける」
今し方いた影は消え去り、その他にも周りには人の気配も姿も感じられない。建物の間から勢いよく飛び出したものの、足が重い――そう思った時。瓦礫に躓き砂交じりの地面に体を強打し、走っていた勢いで湿った地面をザザッと音を立て滑り止まる。
「……った、たた」
強打した部分と膝に鈍い痛みが走り、顔を顰める。腕に力を集中し、重く感じる体を起き上がらせた。
「こんなの、なんてことない」
拳を握り締めたと同時に、砂利が私の皮膚を削り、先へ急ごうとした時だった。
「おい。こんな所に若い娘がいるぞ」
「へへへっ。逃げ遅れでもしたのか~? お嬢さん」
砂利の音がしたと共に私の頭上から降ってくる声に、息を飲みゆっくりと顔を上げた。
「お嬢さん。可哀想に置いていかれたのかい?」
現れたのは、にたにた気味悪く笑う表情で見下ろしてくる男が2人。シャルネイの騎士達ではないってことが、その様子から悟る。私をねっとりと見つめてくる眼光に、ゾクッと背筋に冷たいものが走った。そして、座ったまま硬直している私は、1人の男に腕を掴まれてしまう。
「っぃたっ、い」
「おらっ立て!」
「ぃ……や!! 離して!!」
「暴れると痛い思いをするぜ、お嬢さん」
男はそう言うや否や、私の喉元に冷たくて硬質なものを宛がう。それは確認するまでもなく分かってしまった。
「大人しくしてさえくれていれば、俺達は悪いようにはしないさ」
「そうそう、いひひっ」
男達は、ただニタニタと気味の悪い笑い声と表情を浮べたまま、私を眺めている。私は眉を顰め見上げていると、喉元にあった硬質が今度は頬に移され数回、平らな部分で叩かれた。