君がいるから
「お前達はあきなを連れて戻ったのは、ただの気まぐれだと言っていたな。真実は何だ」
「気まぐれは本当。あなたがいう真実……俺が言える範囲は、あきなはもうギルのモノってことくらいかな」
その瞬間、私達を包む空気が変わった気がした。張りつめた空間に――。未だに掴まれたままのウィリカの襟元に、力が加わる。それでもなお、ウィリカは表情を変えることはない。それに、ウィリカが放った言葉は――。
「ウィリカっ。私がギルの――」
「――今、何と言った」
とても冷たく鋭い声に、私は動きを止めてしまう。
「ギルのモノと言ったんだ。これは彼女とギルの契約上の話だから、これ以上は言えない」
アディルさんの拳に、腕が震えてしまう程の力が込められていて。ぐいっと力強くウィリカを襟元を引き寄せた。
「貴様!!」
「アディルさん!」
「怖いなー。詳しくはあきなかうちの馬鹿長にでも聞いてください」
「ウィリカっ」
「僕はやることがあるのでもう行きます。遅れたら酒を盗られかねないから。それにちゃんと契約は守らないと、ね?」
ウィリカは私に片目を瞑って見せ、襟元のアディルさんの手を払いのける。掌をひらひらと振りながら、私達を横切る際にもアディルさんが飛び掛りそうで必死に腕を掴み止める。何事もなかったかのように通路の奥へとウィリカは去って行く。
突然のことに私はただ、去って行く背中をその場で見つめ続けるだけ。
「あきな」
頭上から降りてきた声音に引き寄せられるように、そっと見上げる。少し怒りを含んだ紅い瞳が私をただ見据えていた。
「どういう事なのか、教えてくれ」
「えっと……その」
「俺には言えないことか」
「…………」
どう言ったらいいんだろう――何を先に伝えたらいいのか。頭の中でごちゃごちゃとした言葉を、パズルのように組み立てようとする。
「あきな」
「えっ……と、約束っというのは、その」
「場所を変えよう」
アディルさんはそう言うや否や、私の腕を掴みそのまま引いて、通路を歩き出す。その行為はこれまでと違う。
私が今まで見てきたアディルさんにしては珍しいと思ってしまう程、口調も腕を掴む荒々しさも――戸惑いが私の中で膨らんでいく。アディルさんの背中しか見えない不安。
(いつも……並んで私の歩幅に合わせて歩いてくれてた)
(今、どんな表情してるんですか? 今、何を思っているんですか? アディルさん――)