君がいるから
* * *
その頃。ある一室に国王ジンの姿が。
木製の椅子に腰を下ろし、ただ一点を見つめ続けている。視線の先には――。
青白い顔。骨ばった手の甲の皺が横たわる者の時を思わせる。細い腕には痛々しく思えてしまう、線が繋がれていた。息遣いが微かに聞こえてくる空間。ジンは、1人その人物を見つめながら何を思うのか。ただ、自らの拳に静かに力を込め続け、漆黒の瞳に宿るのは――。
「なんじゃ、来ておったのですか?」
背後から穏やかなゆったりとした声に、肩の力を少し抜くジン。
「あぁ、気になってな」
「今は安定しております。大丈夫じゃ、このお方はそう簡単に逝きましませんぞ」
「…………」
ジンの隣に並び、横たわる人物の肌に触れる。シェヌの動きをただ黙って視線で追う。
「シェヌ爺。俺はこれから先、多くの民を守っていけると思うか」
ジンの唐突な問いに、シェヌは一瞬手を止め目を薄く見開く。
「今回のことで、城の者も街の民も犠牲者が出してしまった。ギルスまでも……」
更に拳に力が込められ、赤い雫が一筋に流れていく。
「それはあなた様のせいではございませぬぞ」
「…………」
「それに、ご自分1人で多くの民たちの命を守れるわけもない。あなた様を――国の民を守る為に、この城には優秀な騎士達がおります」
シェヌはジンへ向き直り、皺くちゃな小さな手でジンの拳をそっと開かせる。微かに染まる赤の掌に消毒液を付け、ガーゼを乗せた。
「ジン様はこの国の主。それは誰もが認めており、皆あなたについていこうと決めています」
「俺は……ただ……」
「ジン様も1人の人間。自分だけを犠牲にして……など考えない事です。万が一、そうなった時――誰が一番悲しむか。どれだけの民が涙を流すことか」
「……俺は弱い」
「人は誰しも弱くて儚い。じゃが、時に誰かのために強くもなれます」
包帯をジンの掌に優しく巻いていくシェヌ。手の優しさにジンはそっと顔を伏せる。
「あなた様にとって民よりも、もっと大事なお方が現れると良いですのう」
こほほほっと喉を鳴らし笑う。
「ギルスの長様の容態は油断は出来ない。だが、きっと大丈夫じゃろ。ジン様も体を無理させず、休める時に休んで下さいな」
「……あぁ。すまないな、手間をかけさせて」
腰に手を当ててトントンと数回叩きながら、歩み始め行くシェヌ。だが、何かを思い出したかのように、足を止めた。
「そうじゃ。レイ様のことですが。あきなのお陰で随分と良くなられたようです」
あきな――という名。無意識に反応を示すジンの様子を見過ごさないシェヌは再び喉を震わせた。
「あの子は本当にいい子じゃ」
シェヌは何故、ジンに言い残して行ったのか。自身の掌に巻かれた包帯を見下ろし、暫くその場を離れようとはしなかった。