君がいるから
* * *
「入って」
背中に手を添えられながら、開かれた扉の中へと足を踏み入れる。中へ入り、扉が閉められた音が耳に届き、少しだけ体が強張る。
(どうしよう……いつもとアディルの様子が違いすぎて、どうしたらいいか分からない)
そう頭の中で言葉を巡らせていたら、私の横を通り過ぎていく甘い香り。
「あきな」
少し低い声で呼ばれた自分の名。アディルさんの顔が直に見られない。だからか、どんどん下がる視線の先に、アディルさんの足元が映り込む。私のすぐ目の前にいると思うと、より緊張感が増してしまう。
「あきな」
「…………」
「説明してくれないか」
「…………」
(説明。そう言われても、どこからを話していく? 連れて行かれた時からのこと――さっきウィリカが言ったこと)
私はアディルさん達が、ギル達からどういう風に戻って来た敬意を聞いているのかさえ知らない。ジンには夢の話をした。けれど、それを聞かされているのか。
「あきな。どうして黙ってるの。俺には言いたくない理由でもあるの」
頭を左右に振り、否定を見せる。
「じゃあ――約束って? あいつのモノってどういうこと」
「……あ、あれはっ。その……ギルのモノというのはよく分からないです。ただ」
「……ただ?」
「シャルネイに連れて戻ってくれたら、ギル達の言うことを何でも聞くと約束をしました」
私は何処にも逃げないから――そう彼等の前で口にした。そうでも言わなければ、この場所にもう一度戻っては来れなかったと思う。
「何故そんなこと。連れ戻る前に危険が及ぶ可能性も……ましてや、口約束だ、シャルネイに戻る保障もない。あきなが不利になる事を命じられたら、そうせざるおえない状況になる。なのに、何故そんな無茶を」
両肩を掴まれ小さく揺らされたのち、力が加えられる。
「……夢を見たんです」
「夢……?」
「アディルさん、このお城の人達や恐らく街の人達。あの銀髪の人にころ……される夢を」
言葉にしていく内に、徐々にあの時の夢が鮮明に蘇ってきて、手先が冷たくなり震え出す。
「だから、その事を知らせたくて……現実のことになるなんて確証は持てなくても、私が知らせなきゃいけないって思って――」
蘇る記憶に夢の中で見た悲惨な光景、今でも覚えてる赤の感触。震えが強くなってきて、力を込めようと思っても思うように出来ない――大きな掌が優しく包み込まれる。