君がいるから
この世界――ガディスに来てから、支えて続けてくれた掌。不安を拭ってくれたのはいつもあなたで。次第に瞼が熱を持ち始めてくる。一歩前へ歩み、アディルさんの胸元に自分の額をそっと預け、おもむろに口を開く。
「あなたを――失いたくありませんでした」
(この温かさを失いたくなかった)
「現実になんて、なってほしくなかったんです。ただの夢であってほしいって願って」
瞳に溜まった雫を落とさないように、瞼を閉じる。
「自分ことはどうでもよくて。それでもあなたに知らせたかったんです」
「あきな」
(この声が聞きたくて)
「ごめん、守るって約束したのに。あの時、君の手が離れていく時、ただ見ていることしか出来なくて」
(優しい手つきで私の頭を撫でる、この手を失くしたくなかった)
「あきな。俺を見て」
両頬を掌が包み込み、上を向かせられる。見上げた先には、いつものアディルさんの表情が浮かんでいた。その事に安堵したのか、視界が微かに霞む。指の腹でゆっくり撫でられる。それがくすぐったくて、ぴくりと肌が反応を示す。口端を柔らかく上げるアディルさん。
「俺は……自惚れてもいいのかな。こんな表情、反則だよ」
「すいません……酷い顔してますよね」
ふいに顔を伏せようとすると、それを許さないというようにアディルさんの手が静止させる。
「あきな。俺をちゃんと見て聞いて? ここでもう一度、君に誓う」
互いの瞳の視線が交わる中、紅い瞳の色が深まったよう。逃れることは出来ず――。
「命に代えても君を必ず守る」
「アディルさ、ん」
「だから――もう俺の前からいなくならないで」
か細い声と共に、そっと近づいてくる紅の瞳。一度鼻先が触れるか触れないかの距離で止まり、思わず瞼を閉じる。私の名を囁かれ、恐る恐る再び開く。薄く開いた瞳同士が互いを確認するかのように見つめ、一つまた一つと距離が近づき、何方からともなく瞼を閉じる。ゆっくりと口元に感じ広がっていく熱。
触れるだけだった熱は、次第に甘さと深さを増し、何も考えられないように酔わせていく。アディルさんの甘い香りが余計にそうさせているのかもしれない。ようやく分かった気がした――自分の奥深くにあった想い。
あなたに触れられると、胸が高鳴って。あなたが傍にいるだけで、とても嬉しくて。あなたが私の頭を撫でる、その掌がとても心地よくて。