君がいるから
* * *
「おいっ!!」
「へっ!? うわっ!!」
突然、目前に――しかもかなりの近距離にレイの端麗な顔があり、驚きのあまり背を反らせすぎて、椅子から落下寸前。
「あんた、阿保すぎ」
「返す言葉がありません……」
落ちそうになった私の腕を咄嗟に掴み、前方へと引き戻してくれたレイ。彼は、眉間に皺を寄せ私を睨み、不機嫌さを隠さずにいる。
「人の部屋に来たかと思えば、座ったまま人形の如く動かず終い。しまいには時折、気持ち悪く笑う。傍にいるこっちの身ににもなれ。落ち着いて本も読めやしない」
「気持ち悪いって……」
「俺の大事なひと時を邪魔したのも、全て事実だ。何か異論があるなら聞くが?」
「……いえ、ありません」
「言うことはそれだけか」
「申し訳ありません。以後、気をつけます……」
ソファーの上に乗り、背筋を伸ばして正座。深々と頭を下げ、謝罪の言葉を口にした。年下相手から説教を受け、尚且つこして頭を下げるって、なんとも情けない。頭を上げたものの、項垂れる私。ソファーの振動でそろり上目で見てみれば、本を開き頁をめくっているレイが。
「んで?」
「はい」
「あんたは、ここに何しに来たわけ?」
「昼食を届けに来たんだよ?」
「あんたの目には、ここに昼食があるように見えるの」
首を傾げながらレイの姿をとらえ、手元と部屋を周り見て、ガラステーブルへたどり着き、山積みにされた本と――。
「あー!!」
「……煩い」
「ごめん!! すぐ持ってくるから、待ってて!!」
ソファーから飛び降り、慌ただしく扉へ向かう。呆れた表情で溜息を吐くレイを気にすることもなく。扉を乱暴に開閉し、慌しく駆け抜け部屋を後にした。
「……バーカ」
扉が閉まった後、レイの放った一言は私に届くことはなかった。
通路を駆け抜けながら、自分を叱る。暫く走った後、少しずつ上がっていく息が足を止めさせた。壁に手を当て、息を整える。跳ねる肩が次第に落ち着こうとした時、ふと指先は自分の唇へと誘い、指先が柔らかいそれに触れる。
今も残る感触。その事を考えるだけで、体が熱を帯びていく。長めの息を吐き出し、その場に力なく座り込む。
(キ……スしちゃった……んだよね。夢じゃない……んだよ……ね)
未だに信じられない行為に、何度も自分自身に問う。