君がいるから
* * *
――自分の気持ちに気づき、温かいものがじんわり広がっていって。ほんの僅かな時間かだけだと思う。息が苦しいと思うくらいに抱きすくめられ、そこで漸く夢心地から覚めたように現状が流れ込む。
「あ、の……アディルさん」
「……ん?」
「そ、ろそろ離して、頂いてもいいですか?」
「どうして?」
これ以上は無理だというのに、更に抱き寄せられ、私たちの間には隙間のすの字もない。今思えば、私が願いを口にしたら、かなりの確率で聞き返してくるような気がする。
「ちょっと、苦しい……ので」
「俺はまだこのままでいたい」
「お願いします」
今一度呟き、鼻先で笑う微かな声。もう一度力を込められ、そうしてゆっくりと体が離れていく。
「あきな?」
「は……い」
体を離してくれたのはいいけれど、顔の距離はあまりに近すぎて、まともに直視出来ない。今し方の事がまた込み上げて来て、恥ずかしすぎてどうにかなってしまいそう。現に顔は熱すぎて、確実に色づいているだろう、自然と俯く。
くすり――微かにアディルさんが笑ったような気がして、余計に熱が帯び、視線が更に下がっていく。
「可愛い」
「かっからかわないで下さい」
「あきな、心配しないで」
「……何をですか?」
下方を見つめながら答えると、頭の上に重みを感じ数回それは跳ねる。
「彼等との約束のこと。心配しなくて、大丈夫だから」
アディルさんの言葉に、思わず顔を上げてしまい紅い瞳と出合う。優しく柔らかく微笑むいつもの表情がそこにある。
「俺が何とかするから。何も心配しないで」
「でも、それは私が――」
「俺が守るって、さっき約束したでしょ」
私の言葉を遮るアディルさんは真剣な表情。けれど、すぐにまたあの微笑みへと変わる。
「それから、あきなも約束してほしい」
「…………」
「俺の前からいなくなったりしないって。約束してほしい。君に今、俺の目の前で」
顎にアディルさんの指が添えられ、親指で唇をなぞられる。ほんの少しの行為に、私の全部を熱くさせる。
「……あきな。約束して?」
言うまで離さないとでも言うように、じっと私を見据え続けるアディルさん。私は、閉じていた口を薄く開く。
「……はい。約束します」
ただ一言そう告げるだけなのに、緊張が入り交じり微かに声が震えた。途端、額に柔らかくて暖かな感触と一緒に、小さくリップ音が鳴る。気づいた時には、アディルさんは満面の笑顔を浮かべ、私の頭を撫でていた。