君がいるから


   * * *


 その後――私は顔から火が出てしまうというか、あまりにも想像以上のことが起こりすぎて、倒れてしまいそうだった。
 アディルさんは仕事があり、私はシェヌお爺さんの所へと告げ、一緒に部屋を出た。送ると言い張るアディルさんに送って貰うことに。シェヌお爺さんの所へ着くまでの間、一言も会話を交わすことはなく。現実味がない上に、これからどういう顔をして会話をしていいのか、全然答えが見つからなかった。そして、シェヌお爺さんの医務室へ到着し、アディルさんは。

『ずっとあきなに付いていたいけど、仕事がまだ片付かなくて。ごめんね』

『いっいえっ。全然、気にしないで下さい』

『また落ち着いたら、一緒にお茶しよう』

『はい』

 私の両手を手に取り軽く数秒程握り、にっこり微笑み暫く見つめられた後、アディルさんと別れた。終始、動悸が激しすぎて、痛いくらいで。それが尾を引いて、シェヌお爺さんの手伝いに来たにも関わらず、逆に手を煩わせてしまうことになってしまう始末。途端に茫然としすぎて薬品を落としてしまったり、傷を手当に来た騎士さんに思いっきり消毒液をぶちまけてしまったり――その他にも色々。
 挙句には、シェヌお爺さんに、ここはもう大丈夫、レイのことをお願い――やんわり手伝いを拒否されてしまった。自分でも、これ以上いては、仕事を増やしてしまうだけだと医務室から出た所、ちょうどジョアンさんと出くわした。
 レイの昼食の準備が済んだから、厨房に寄って持って行ってくれないかと頼まれて、了承したのにも関わらず。レイに阿保と言われ、現在に至ります。

「何やってんだろ……私は」

 もう一度深くため息をつき、背後から私を呼ぶ声に振り向く。

「……よかった。見つかって、はぁはぁ」

 駆け寄ってきた男性。息を切らし膝に掌を付けて、呼吸を軽く整えたのち、背筋を伸ばす。

「あ……の?」

「自分はシャルネイの騎士であります。あっそれは言わなくてもお分かりになりますよね」

「ふふっ。えっと……それで私に何か?」

 そう問うと、にっこりと微笑み口を開く。

「アディル副団長に命を受けてまいりました!」

「アディルさん!?」

 アディルという名を聞くだけで、変に上った声と心臓が大きく跳ね上がって、思わず声が大きくなってしまった。


< 352 / 442 >

この作品をシェア

pagetop