君がいるから
「レイ……痛い」
胸にあったレイの腕は、お腹に移動して、私の気持ちとは裏腹にますます圧迫感は増していく。
「レイ、苦し――」
「苛々する」
「……私出て行くから、離してくれないと行けないから」
「ここで離したら、あんたはもう……ここには来なくなる」
レイの言っていることが、理解できない。私がいる事で苛々すると言うのはレイで、それなのに、まるで出て行くことを拒んでいる態度を見せるのは、それもまたレイ。
「とっとりあえず、手を放して?」
「……やだ」
「やだって……そんな子供みたいな言い方……ね? お願いだから」
「……やだ」
息を大きく吸って静かに吐き出す。どうしたらいいものか――天井を見上げ、途方に暮れる。恐らく口を開けば、同じ事の繰り返しになることは何となく予想はつく。ひとまず、レイが飽きるのを待つしかない。それが早いか遅いか、予想は出来ない。
コンコンッ
静寂に響く扉を叩く音に、体が反応。
「レイ、誰か来たよ。ほらっ」
「……ほっとけばいい」
「メイドさんたちかもしれない。食器を片付けに来てくれたのかも」
必死に説得を試みるものの……一切効果なし。この際だから、誰でもいいから助けてほしい。
「レイ様、食事中とは思いますが、失礼致します」
扉の向こうから聞こえてきた声に、今度は体が硬直する。誰か助けてほしいと願いはしたけれど、このタイミングで入って来られるのは一番困る。ドアノブが回され、扉がゆっくりと開き始めていく。
まずい――今、この状況をこの人に見られたらと思うと。温かいはずの背は微かに震える。
コツンッ
開かれた扉の向こうから靴音が鳴り、声の主が姿を現す。
「レイ様、こちらに――」
声の主の――透き通るような、それでいて冷ややかな青の瞳と出合ってしまう。瞬間、青の瞳は冷たく突き刺すような視線へと一瞬にして変化させる。
「……アッシュ、さん。これは、その」
「アディルだけでなく、レイ様まで垂らしこむのか、。お前は」
「別に垂らしこんでなんかいません! これは私の意志じゃっ」
「だったら、とっとと離れたらどうだ」
それが出来ていたら苦労していない――この言葉は出すこともなく喉の奥へと消える。
「アッシュ、何しに来た」
私がうな垂れていると、レイは私の肩に頭を預けたまま声を放つと同時に肩から重みがなくなった。