君がいるから
レイは頭を上げて、睨むようにアッシュさんを目を細め見ている。アッシュさんはそれに動じず、胸に掌を当て頭を下げる。
「お食事中とお聞きしておりましたが――その者に所用がございまして」
その者――私に青の瞳が向けられる。また背筋が震えてしまう。まだ、この人の瞳に慣れるのは時間がかかりそう。
「あきなに何の用があるって?」
「自分はその者を連れてくるよう、命じられただけですので」
「ふ~ん」
2人の間の空気がものすごく冷たく感じるのは気のせいだと思いたい。この場から早く離れたい気持ちでいっぱい。未だにレイに背後から抱きしめられている状態で、この体勢からも早く解放してほしい。
「私が口を出すことではないことですが、お2人は何をしていらしたのですか? 外の者に食事中と伺ったのですが」
アッシュさんが、私達の今の状態を見て冷ややかな視線を送る。誤解しないでほしい――私から望んでこの状態になったわけじゃないんだと、この人を前にしたら、心中でしか訴えることしか出来ない。
「言わなきゃ分からないんだ?」
「はい、私には」
レイが挑発的な口調で言い、アッシュさんはそれを気にしていないようで、表情一つ変えずに聞き返す。
「お楽しみ中なんだよ、こっちは。だから、アッシュそう伝えろ」
「っレイ!?」
突然の発言に驚き、首を思いっきり捻って見上げると、同時に無表情で私を見下ろしてくるレイ。
「なに」
「なに――っじゃない!! そんな誤解されるような言い方しないでっ。私達は別に何も――」
「…………」
(なぜそこで急に黙っちゃうの!?)
ただジーッと見つめてくるレイは無表情。
「とっとにかく、もう離してほしい」
「やだ」
今度は私の方が苛々が募る。レイの言葉も行動も理解し難い。私を見て苛々すると言ったのはレイ、でも私が出て行こうとするのを拒む。一体全体どうしたいのか。
「お取り込み中なのは申し訳ありません。が、レイ様」
さっきより近くで聞こえる声に、はたっと動きを止める。レイと睨めっこに夢中になっていたら、気づけばすぐ傍にアッシュさんが立っていて。
「約束の時間が迫っておりますので、一先ずこの者をお借りします」
その言葉と共に左手首を掴まれ、一気にレイから引き剥がされた。