君がいるから
突然、腕を引っ張れたからか、勢いに負けて少し前につんのめってしまう。
「うわっ」
そのせいで、アッシュさんと今までにない近距離で、私の視線はアッシュさんの胸元。驚き慌てて距離を少し取る。
「すっすいません」
「…………」
本当は私が悪いんじゃない――気もするけれど、この人の前では思わず出てしまう。でも、私の言葉に何も返答をしないアッシュさんと目が合わせられない。
「誰も連れて行ってもいいなんて言ってないけど」
背後からするレイの声色は若干、怒気を含んでいる。私は、やっとレイの腕から解放されたことに安堵していると同時に、今度はアッシュさんと――なんて不安が生まれる。
「申し訳ありません、レイ様。ジン様のご命令ですので」
「……ふ~ん」
「それでは、しばしこの者をお借りいたします」
アッシュさんが冷静にレイに告げ、私の手首を引き扉へと踵を返した時だった。
「それなら、俺も行く」
「え!?」
予想もしてなかった言葉だったんだろう――振り返ったアッシュさんの瞳が珍しく見開かれる。私も後ろを振り向いた先に、レイが真顔のまま私の横へと歩み寄ってきた。
「その手、いいかげん離せ」
そう言って、アッシュさんの手に掴まれていた腕を強引に引き剥がし、再びレイの手に捕まった。
「俺が行くことに異議はあるか? アッシュ」
「ございません」
レイの問いに先程と同じように礼をした後、アッシュさんは扉を開く。アッシュさんに続き、レイ、私の順番に扉の向こうへと出た。
* * *
(これからどこに向かうんだろう)
アッシュさんが先頭を歩き、その後ろに私とレイ。その背後に、私を護衛すると言ってくれた騎士さんは心なしか緊張しているよう。行き先も告げられないまま、レイの部屋を出てから数分。ジンに私を連れてくるように言われたようで――。
横目で左隣にいるレイを盗み見る。相変わらずの無表情のまま。部屋から出るなんて、珍しいんだろう。レイの発言にアッシュさんも少し驚いていたようだった。現に騎士さんも、驚き過ぎて硬直していたし。一つため息をつき、おもむろに口を開く。
「……あのさ、レイ」
「なに」
「そろそろ、これ離してほしいなぁって」
未だに掴まれたままの左腕を、ちょいちょいと指し示す。