君がいるから


「や――」

「やだって言う台詞は却下します」

 レイが言う前に私が言葉を遮る。

「結構、掴まれたままっていうのは、疲れるんだよ」

 本当は無理にでも自分から離れればいいんだろうけど、何となくそうしたらいけないかなと思い、そのままにしていた。レイ本人がそうしてくれるのを待つ。

「お願いだから」

「…………」

「何処にもいかないよ」

 レイに微笑みかけ懇願する。レイは一つ息を吐き出してから、そっと指先を開いてくれた。圧迫感が薄れ、レイの指先からそっと腕を引き抜く。若干強めに握られていた腕には、ほんのり赤みを帯びていて、少しひんやりとした空気が気持ちよく感じてしまう。

「……赤くなってる」

 ぼそり――呟かれた声に、腕から視線を外し見上げたら、レイが私の腕を見つめていた。

「全然、大丈夫。このくらいの赤みなんてすぐにひくから」

「…………」

「あとで時間あったら外の空気吸いに行こう。せっかく部屋から出たんだし。ね?」

 部屋にこもって本ばかりを読むばかりじゃなくて、たまには外に出て新鮮な空気を吸った方が気分も変わる。薄暗くして窓も開けてない部屋に毎日毎日いたら、マイナスな方にしか気持ちも向いていかない。

「……行く」

「ふふっ。じゃあ、約束ね」

 無愛想ながらも答えてくれたレイのその一言がとても嬉しい。さっきまでのレイはよく分からないけど、少しずつ前を向いてってくれてると願う。

 ――あ、なっ――

「え?」

 ふいに名前を呼ばれた気がして、足を止めて振り返る。

「どうかなさいましたか?」

 背後を歩いていた騎士さんに不思議そうに問われるも、首を左右に振る。

「あっいえ。何でも……気のせい?」

 でも不思議と気になって、足を止め続けていたら――。

「とっとと歩け」

 前方にいるアッシュさんの鋭い声色が飛んできて、肩を小さく震わせる。少し前にいるレイの横へ早足に戻った。

「急に立ち止まって、何してんの」

「ううん、気のせいだったみたい」

「ふ~ん」

 レイにも問われたけれど、笑みで誤魔化し返す。
 気のせいだとしても、微かに胸のもやもや感が生まれ、そこでもう一つ気になる事。数日、黒の夢も見なくなり、光の球体ティムに会うこともなく。聞きたいことがまだまだある、出来るなら本当はもう、あんな夢は二度と見たくない――。


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