君がいるから
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このお話はシェリーが、この世に生を受ける前に遡る所から始まる。現在よりも、世界の小さな国々同士の争いが絶えることなく続いていた、この頃。
中には名もない国もあり――その中の1つに国とは言いがたい小さな小さな地があり、森の中に潜むように作られた住処にはある種族が住んでいた。
遥か古より受け継がれてきたラビト族という種族。ラビトの姿形は人間そのものだが、戦闘能力が優れ脚力がとても強い種族であった。その昔、龍が空を舞っていた頃――地に降り立った龍の使いをしていたとも言い伝えられている。この種族は外部との接触を強く拒み、龍が姿を消した頃からその姿を目にした者はそうはいなかった。
人間の目から逃れるよう、種族を永年の間守ってきた血筋は一時期、数十名にまで減少していたこともあったという記述が残されている。
しかし、何とか血筋を絶やすこともなく平穏を愛し日々を過ごし行く中で、ある1人のラビト族がきっかけで揉め事が起こった。1人の男性ラビトが異なる種族の女性バートルと恋に落ち、のちに女性バートルはお腹に命を身ごもってしまったのだ。女性の種族――バートルとはラビトと同様、人となりをしているが背に羽が生えている種族。バートルもまた龍の使いとして仕えていた種族でもあった。
共に龍に仕える者たちだったが、ラビトはバートルを忌み嫌い対立が絶えなかったと古書に記されている。古からの因縁が現代にまで長く受け継がれ、ラビトとバートルは一切の接触を経っていたのにも関わらず、2人の男女が交わってしまったのだ。
古からきっかけを探し歩み寄ろうとしていたバートルは、これを機に互いに助け合いゆけたらと考えた。だが、ラビトはそれを頑なに拒んだことで、バートルは2人の若者の幸せを――首を縦に振ることは出来なかった。
女性のバートルは、何があっても小さな命を殺すことは出来ないと両者へ伝え、男性のラビトもまた時間が許す限り両種族に理解を求め足を使い続けた。
そして、時は流れ――互いの了承も得ぬまま、新しい命がこの世に誕生。桃色の髪、大きな丸い赤い瞳、背には真っ白な羽を持つ女の子。のちにシェリーと名づけられた。両種族は各々の領域に入れることを許可せず、2人と赤ん坊は小屋を森の奥に建てひっそりと新たな生活を始めめた――しかし、ささやかな幸せはそう長くは続くことはなかった。
バートルの種族が人間達の手によって虐殺事件が起こってしまう。