君がいるから
閉ざされた扉の向こう側から微かに足音が遠ざかっていくのを確認し、肩で大きく息を吐き、未だ窓から暖かな日差しが部屋へ注ぎこまれている奥へと足を進めた。自然とベットへ来ていた私はそのまま倒れ込み、反動でキシキシと音をたてた。
「やっぱり、あの人……苦手だ」
大きく柔らかな枕に顔を埋める。
(あー、何だか部屋がポカポカしてて、すごく気持ち良い……)
ずっと体が強張っていたからか、部屋に戻ってきた安堵感で段々瞼が降りてきてしまう。
『昨日から寝てばかりいるのかも』っと頭の片隅で思ったけれど、眠ってしまえば何も考えなくて済む。
(ダメだ、もう……瞼……上がんないや)
コン コン コン
瞼が完全に閉じようとしたと同時に、控えめに扉を叩く音で重い瞼を微かに持ち上げる。
「あきないる? アディルだけど、入ってもいいかな」
扉越しに聞こえた声に、完全に瞼は開かれ勢いよく体を起こし慌ててベットから降り、足音をたてながら扉に向かう。扉を開けた先に、柔らかい微笑みをしているアディルさんの姿があり、私も自然と頬が緩む。
「お仕事、もう終ったんですか?」
「いや、これからなんだけど、その前にあきなに話があって」
アディルさんが、人差し指で部屋の中を指し動かしたのを見て、扉を大きく開け中へと招き入れた。そのまま中に入ってソファーに腰を下ろし、私にも座るようにと掌で合図される。私が腰を下ろした時、アディルさんはまっすぐに見つめてきて、何だか恥かしさで目を泳がせた。
「もしかして、体を休めようとしていたところだった?」
「いえっ大丈夫です。今さっき部屋にアッシュさんと戻ってきた所だったんです。ところで話って……?」
姿勢を正して問いかけると、アディルさんは掌を合わせ長い指先同士を絡めた。
「あきなには、悪いんだけど。今から外には一切出ないでほしいんだ」
「え?」
さっきまでの微笑みは消え、真剣な眼差しで私を見据えるアディルさんの瞳。
「これから、ある儀式が行われるんだ」
「儀式……ですか……?」
(アディルさんの言う儀式と私に何か関係があるのかな……)