君がいるから
不思議そうに首を傾げていたら、アディルさんは口端を少し上げた。
「あきなと儀式は関係ないよ。だけど儀式の間、俺も長もあきなの傍にはいられない。ただ、それだけ」
(そっか……アディルさんかアッシュさんがいないと外、通路にさえ出ちゃいけないんだ)
改めてあのギルスさんに言われた言葉を思い出し俯く。すると『あきな』っと声を掛けられ、顔を上げる。
「深く考えることはないよ。俺たちがいない間、外に出たって迷うだけだと思うし。それにまだ他の騎士達に詳しく話をしたわけじゃないっていうのもあるから」
「はい。分かりました。部屋から出ないって約束します」
アディルさんは私に答えるかのように微笑み返して立ち上がると、両手を挙げ腕を伸ばす。
「さてと、俺もそろそろ行かなきゃな」
「そうですか。えっと……いってらっしゃい」
指先を弄りながら出た言葉に、アディルさんは『いってきます』と小さく笑う。再び、扉の方へ向かうアディルさんの背中を追う。
「必要なものはこの部屋に揃ってると思うから好きに使って。それと外に俺の部下が1人外に付けておくから、何かあったらその者に言い付けて」
「何から何まで、本当にありがとうございます」
お礼を口にし頭を軽く下げた時、頭の上で数回弾ませ、くしゃりと髪を撫でられた。
「今度は掴まないんだね」
……へ? ……っ!
「あっあれは……その……なんというか」
最初何のことを言ってるのか、理解するのに少々時間が掛かって考えてみたら、さっきのあの庭でのことを思い出して顔全体が急激に熱を帯びる。それに正直なんて言っていいのか分からず。
「冗談だよ」
くすくす笑いながら扉を開け出て行こうとする間際、グイッと腕を突如引かれ驚いている間に、お互いの息がかかる程近くにアディルさんの端整な顔で視界がいっぱいに――。
「あきな、本当にかわいいね」
ウィンク1つを落として、またくしゃりと頭を撫で、そうして扉が閉められた――。
『あきな、本当にかわいいね』
ぺたり――その場に崩れ落ち、熱を帯びた顔を両手で覆う。
ドク ドク ドク ドク
(心臓が……壊れる)
体のありとあらゆる脈がどくどくと打ち、胸の鼓動がやけにうるさく耳に響く。しばらくその場で、早鐘を打つ鼓動が治まるのを待っていた――。