君がいるから
* * *
あれからどのくらいの時間が経ったのか。だだっ広いこの部屋で1人ぽつんといても何もすることがない。ただ静かで、外からは虫の鳴き声が微かに聞こえてくるだけ。
さっきまで暖かくこの部屋を照らしていてくれた太陽は隠れ、その代わりにあの月の光が差し込む。この世界で2度目の夜が訪れた。
「父さんもコウキ、きっと心配してるよね」
ソファーの上にある通学鞄を開け、そこから携帯を取り出した。少しの期待を胸に、折りたたみの携帯を開くも――。
「やっぱり圏外。そりゃ、そうだ……」
始めから分かっていたこと、ふぅと息を吐いて携帯を閉じ手にしたまま、大きなふかふかなベットに背中から倒れこむ。天井に備え付けられたシャンデリアに灯された光が、キラキラ輝いているのがとても眩しく感じて瞼を下ろす。
「コウキ、ちゃんとごはん食べてるかな。あの子、料理なんてしたことなかったし……。だから私がいない時に出来るようにって教えてあげるって言ったのに」
1人呟いて思い出すのは、日々の出来事。
「本当に私は……またあの家に帰れることが出来るのかな」
襲ってくるもう何度目かの不安に、瞼がじわりと熱くなってくる。それを抑えるかのように、両腕を目元に乗せた――。
コンッコンッ
突然のノック音に、びくりと体が強張る。
コンッコンッ
再び、扉をノックする音。私は慌ててベットから降りて『はい!』っと返事をする。少し濡れた目尻を拭いてから扉へ向かい、そっと開いた――そこには。
「……えっ……と」
私は扉を開いたそこにいる人物を目にした瞬間、思わず体が硬直した。原因は――あの時、私をこの部屋から追い出した女性がカートを手にして、目前に立っていたからだ。
「あきな様。お食事をお持ちしました。お部屋へ入らせていただきます」
返事をする前に、その人はカートを押し、私の前を通り過ぎ部屋の奥へと進んで行った。