マザーリーフ
桃子が同窓会から帰り、夜が明けても、隆は本当に帰ってこなかった。

家の門の郵便受に保険証をいれておいたら、何時の間にかなくなっていた。

桃子に見つからないようにこっそりと来たのだろう。


隆は小遣い制で銀行の通帳やキャッシュカードは桃子が持っているから、隆が会社を辞めない限り、お金のことは大丈夫だろう。

愛菜は
「パパは帰ってこないの?」
と可愛らしい声で聞いた。

「さあね。そのうち帰ってくるかもね。」

桃子はそっけなく言う。

「パパと遊びたいな。ねえ、ルルちゃん。」

愛菜は抱いている縫いぐるみのクマに話し掛けた。

ーあんな奴だけど、愛菜にはたった一人の父親だ。

可哀想な愛菜。

このままだと離婚することになるのかもしれない。

仮に隆が戻ってきたとしても元のようには修復は出来そうもない。

面倒なことだけれど、そのうち両親と隆の親にも報告しなければ。

母子家庭かぁ…嫌だな。

桃子は溜息をついた。



カレンダーは十五夜を描いたイラストになった。

なのに、残暑はいつまでも続いた。

相変わらず隆は帰ってこなかったが、
三回程、「愛菜の声を聞かせて。」
と桃子に電話してきた。

「今、どこにいるの?」
と聞くと、

「言えない。」と言う。

桃子は電話を叩きつけたい衝動に駆られるが、ぐっと抑え愛菜に代わってやる。

愛菜には大事な父親だから、と自分に言い聞かせた。



隆がいないと、夕飯の支度が楽だった。

隆はおかずが三品以上ないと不満顔をした。

おまけに晩酌もするので、なかなか片付かなかった。

愛菜と二人だったら素麺と竹輪を揚げるだけで良い。

夜、愛菜が寝たあと、自分の時間が作れるようになった。
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