夜明け前
最悪…。
珠花が悪いわけじゃないのに、こうなれば、珠花は余計に心を閉ざす。
「…朔乃、あの日って?」
そんな重たい空気の中、遠慮がちに話しかけて来た奏音さん。
「あぁ、えっとあの日…は、」
そう、珠花の体調の悪さに俺が気づけなかった日。
…珠花を守れなかった日。
「…奏音さん達が、俺達を心配して来てくれる前の日で、学校から帰って来た珠花の様子がおかしくて、びしょびしょに濡れてて、泣いてたんだ」
「びしょ濡れって、…雨降ってたとか?」
「ううん、降って無かった」
「…誰かにやられたってことか」
「それだったら、水かけるだけじゃなくて、ひどい言葉もかけてるだろうね」
奏音さんとのやり取りの中、そう投げかけてきた千里さん。
「……それは、」
精神的な攻撃、身体的な攻撃。
ただでさえ母様が亡くなって傷ついて、不安定な状態。
「…俺が、守れなかったから」
悔しい、珠花の笑った顔が好きなのに、…あんな表情させたくなんて無いのに。