夜明け前


最悪…。


珠花が悪いわけじゃないのに、こうなれば、珠花は余計に心を閉ざす。


「…朔乃、あの日って?」


そんな重たい空気の中、遠慮がちに話しかけて来た奏音さん。


「あぁ、えっとあの日…は、」


そう、珠花の体調の悪さに俺が気づけなかった日。


…珠花を守れなかった日。


「…奏音さん達が、俺達を心配して来てくれる前の日で、学校から帰って来た珠花の様子がおかしくて、びしょびしょに濡れてて、泣いてたんだ」


「びしょ濡れって、…雨降ってたとか?」


「ううん、降って無かった」


「…誰かにやられたってことか」


「それだったら、水かけるだけじゃなくて、ひどい言葉もかけてるだろうね」


奏音さんとのやり取りの中、そう投げかけてきた千里さん。


「……それは、」


精神的な攻撃、身体的な攻撃。


ただでさえ母様が亡くなって傷ついて、不安定な状態。


「…俺が、守れなかったから」


悔しい、珠花の笑った顔が好きなのに、…あんな表情させたくなんて無いのに。


< 101 / 145 >

この作品をシェア

pagetop