わたるんといっしょ
2012年9月『朝は四本、昼は二本、夜は三本』


(一)


夕暮れの校舎での出来事だった。


「そこの黒い生徒さん」


のんびりとした口調に呼び止められた渉が振り返れば、そこには初めて見る顔があった。


笑顔がやんわりとした女性。教師の鏡とも言えそうな雰囲気を持つ女性が、頬に手を添えながら、「困ってるの」アピールをしている。


「職員室に行くには、どちらに行けばいいのかしらー?」


道に迷った女性は、天神学園に来るのが初めてだったか。広大な敷地面積及び、校舎とて豪奢となれば地図(パンフレット)を持っていても迷うであろう。


「あ、職員室なら、ここを真っ直ぐ行けばありますよ。――なんなら、案内しますが?」


大体の目星はつけていたか、女性の目的地はここから近い。それでも職員室まで同行するという少年に、女性は手を振って、断りを入れた。

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