わたるんといっしょ


自分が外に出て、何かが出来ると奮い起つわけではないが、少なくとも化け物がいるとの注意喚起をし、この場から立ち去ってほしかった。


――くわえて。


「……」


石階段の“あの人の特等席”に、誰もいないのを確認する。


テレサだけではない、春夏秋冬家への来訪者。


こんな大雨で来るわけがない、とは思わない。


――あの人は、雨が降っていることも見ていないから。


現実からの逃避者。
自分の中の世界でしか生きられず、“周りが見えていない”そんな人が、今宵もまたこの階段で『かごめかごめ』を歌うのではないかと、渉は想像した。


そこまでの過程に、化け物があの人を襲わないなどとは考えない。むしろ、逃げない獲物として取り込まれてしまう。


「……、さん」


知らずと漏れたあの人の呼称。


護衛がつくテレサよりも無防備なあの人が心配であり――化け物に遭遇するよりも怖かったかもしれない。


「聞いて、くれますかね……」


僕の、言葉を。


それが無理と自答されるから、怖かった。


< 205 / 454 >

この作品をシェア

pagetop