わたるんといっしょ


化け物に遭遇したならば逃げればいい。しかして、あの人に出会えば逃げられない。


「逃げては、駄目だ……」


向き合うべき過去でありながら、今なお在り続ける現在。未来にしても、あの人はずっと、『ここ』にいるんだ。突き放すことなど出来ない。


「……」


懐中電灯で麓を照らす。雨足の可視化をするようなスポットライトは、地を僅かにしか照らさなかった。


遠すぎる。


「っ……」


ならば、下まで行くしかない。


意を決するように呑んだ生唾が、喉元を通る。


瞬きする間さえも惜しんだのは、目を開けたらそこに、と思えてしまったから。


一人っきりの夜雨。

虎穴に入る勇気は大したものでも、この場合は果敢ではなく無謀であった。


虎穴に入る者総じて、丸腰というわけでもあるまい。人間よりも恐ろしいものがいるならば、それ相応の準備ないし武器を手にするべきだが、傘と懐中電灯だけではあの化け物には敵わない。


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