わたるんといっしょ


「ワタルくんっ!」


叫ぶ呼び声はその人らしからぬものだから、最初、誰だか分からなかったが。


「せん、せ……」


駆けつけてきた女性が、自分に寄り添ったことで認識する。


夜に伺うと言ったのだ。こうして彼女と鉢合わせてしまうのも可能性としてはあったが。


「僕、ほんと意味ないことばかりしてますね……」


苦笑する渉に、テレサは困惑する。


彼女には分かるまい、今の彼の心境が。


噛ませ犬は自分の特権ではないが、弱い者には相応しい無駄手間。


何てことはない、“僕がいなくとも大丈夫だった”と分かりきっていたことを、目の当たりにしてしまっただけだ。


「ど、どうしたのっ、ワタルくん!頭打ったの!笑い事じゃないわよ、あれは!」


< 213 / 454 >

この作品をシェア

pagetop