わたるんといっしょ
スーツに、秋初めには早い茶系の分厚いコートを着た男。営業の出回りスタイルに違いないが、アイロンがけしていないよれよれ感では、先方に嫌な目で見られるだろう。
顔の血色も悪く、眠そうな眼が、渉に気づき、微かに見開く。
「いやぁ、こんにちはぁ」
へこへこした姿勢に相応しい、万年係長のようなガマガエル笑顔でへにゃりと挨拶された。
「あ、こんにちは」
渉とて礼儀正しく挨拶はしてみたものの、強張る肩は、このサラリーマンに警戒心を抱いていたからだ。
人気皆無な山間で、通行する人が珍しいのもあるが、これはあれだ、「知らない人に声をかけられたら」の警戒心に近い。
人間皆優しいと思う、砂糖コーティングの頭でも、『おかしい』と思ってしまう。