わたるんといっしょ


――いる、のに。


家から明かりが溢れている。一家団欒の会話も聞こえる。夕食のカレーの匂いだってするのに――


「誰、か……っ」


誰も来てくれない。


今の時代、人の良心は薄れて、面倒ごとに巻き込まれたくないと、他人をないがしろにする傾向はあるらしい。


事例として、男に追われた女が逃げるさい、集合住宅で助けを求めたそうだが、結局、誰も女を助けなかった。


後の事情聴取によれば、住民の大半がその声を聞いていたことが分かる。


『なぜ、助けようとしなかったのか?』

この質問に対し、住民は皆、まったく同じ答えを出す。


『誰かが、やると思った』


女を助けるのも、通報するのでさえ、『誰かがやってくれるだろう』としなかった。


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