誰もが皆 相手の事を思っているのに、

その思いは絡まり合う事は無く、

和の思いも また、宙に浮いたまま だった。




ほとんど無意識でカフェを出ると、

和は そのまま真っ直ぐ、家へと向かった。


凛に″大丈夫?″と聞かれた気がするが、

それには笑顔で応えられた と、思う。




ただ帰り道、

和は自分の宙ぶらりんな気持ちを無くそうと、

一生懸命 努力した。






桜が舞う あの日、

教室に一人 残っていた貴史は、

たまたま同じように一人で居た和に何となく疑問を持ち、

軽い気持ちで、話し掛けた。


たまたま一人で居る時ばかり、和に遭遇するから、

その度に″おもしろいなー″などと思いながら、話していた…のだろう。


音楽室でピアノを弾いていた時も、たまたま途中で入って来たのが和で、

寂しくて誰かに側に居て欲しいと思っていた時も、

たまたま その場に居たのが、和だった。


入学式の時から一人、人と違うオーラを持っていて、

冷たい印象を与える貴史だったが、

実際は温かく、

誰に対しても分け隔てなく接する性格だと知った今だから、分かる。


あの時、

屋上から飛び降りようと したのが誰でも、

貴史は同じように止めていた。


…決して和の事を好きだったから では、ない。




だから…、

和は貴史に これ以上 近付くのは やめようと、思った。


そうする事で、

行き場の無い自分の気持ちを、少し無くせる気が、した。





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