孤高の魚



……「アユニ」「二番目の歩太」

僕は彼女にとっては、悪まで歩太の付属品でしかない。
こんな時に、彼女に堂々と言葉を求める事すらできないのだ。


………


野中七海の後ろ姿を眺めながら、そんな落胆した気持ちを隠しきれないでいる僕に、野中七海は全く気がつかない。

もしかしたら、わざと気が付かないフリをしているのかもしれないけれど。

尚子とあんなやり取りがあった後で、何事もなかった様に振る舞う彼女の姿を見ているのが何だか悲しい。
そうして、他人と常に距離を保ってきたはずの僕が、こんな気持ちになる事もまた、僕には何だか不思議だった。


………


そうして約束の時間が来ると、化粧気のないまま、野中七海は工藤さんと出掛けて行った。
それを見送った後、僕は一人で缶ビールを数本空け、彼女の帰るドアの音を聞くまで、眠れない夜を迎える事になった。



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