孤高の魚
彼女と彼女



………


あの一件から、尚子はやたらに僕の……正確に言えば野中七海と僕の……アパートへ通って来る様になっていた。

妊娠の事を一切打ち明けないまま、彼氏とは適当な理由を付けて別れるつもりなのだと、尚子は言った。
けれどもすぐに引っ越しはせずに、お腹が目立ち始めるまでは今のアパートで彼氏と一緒に住むつもりらしい。


「今んとこ、その方が便利なの。ここも近いし」


いつか尚子は、そう言って笑っていた。

そう言いながら、新居はもうすでに押さえてあるのだと言う。
前に尚子が言っていた父親代わりだというキャバのお客さんが、尚子との手切れ金として、小さいながらマンションを購入してくれたらしい。

この時代に、随分羽振りのいい話だ。


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