孤高の魚



幸か不幸か、今、ボックス席は二組のお客さんで埋まっていて、野中七海と小百合さんはそちらに付きっきりだ。
カウンターには、僕と工藤さん。
それからママが反対側のカウンターの端に座っている。


「ははは、わかりやすいな、お前。
まあ、煙草でも吸えや。
ママ、歩夢に煙草、一本いいだろ?」


さくらは基本的に、お客さんの前での喫煙は禁止だ。
常連さんは時々こうして、ママに直々にお願いをしてくれる。


「あら、それじゃあ工藤さん、わたしにも一杯、ご馳走して下さる?」


「もちろん。
またトマトジュースですか?」


飲めないママがご馳走になるのは、いつもトマトジュースだ。
僕は早速、冷えたトマトジュースを用意する。


「ありがとう歩夢。
あなたもおビール戴いたら?」


「まあ、今日は他に客もなさそうだしな。
おい、歩夢、たまにはビール飲むか」



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