孤高の魚



僕と工藤さんはビールで、ママはトマトジュースで僕達はカウンターの上で静かに乾杯をした。
平日のこの時間帯から他のお客さんはもう来ないだろう。


「ほら」と、工藤さんはニコチンの強い煙草を一本、僕に差し出した。
実を言うと、工藤さんが愛煙しているこの煙草の銘柄は苦手だ。
それでも、仕事中にもらう一本は特別に美味しい。


「ありがとうございます」


慣れない手付きで、工藤さんが僕がくわえた煙草に火を付けてくれた。
一口吸うと、喉に強い刺激がある。
やっぱり辛い。


「ほら、歩夢、ボーッとしてないで、工藤さんにビール、おつぎして?」


「あっ、はい」


ママの言葉に慌てて煙草を灰皿に置くと、ほとんど空になっていた工藤さんのグラスにビールを注いだ。



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