孤高の魚


尚子は今、最も愛しい人に抱かれているのかもしれない。

そんな尚子の姿は、僕をもう一度興奮させるには充分なはずだったけれど、何故だか不思議な寂しさや虚しさが風のように漂っただけで、僕の体は冷静だった。


足の裏を冷やす床の温度が、やけに痛い。


………


僕は、そんな尚子を置き去りにしたまま背を向け、また足音を立てずにキッチンを歩いた。

部屋へ戻るとベッドの端に腰掛け、タバコを一本吸った。


白い煙が暗闇の中で上るのを見ながら、僕は自分でも驚くほど冷静だった。

僅かな虚しさが漂っているだけで、後はいつもと変わらない静かな夜だ。


ただ、部屋の床を踏む僕の足が、やけに冷えているように感じられていた。


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