歩み


それ以上、理由を聞けなかった。
明日香のことが自分自身を見ているようで、苦しくなりそうだったから。


「私ね、沙紀と司先輩が付き合うことになったとき、沙紀が羨ましかった。けど…憎かったの。何で私じゃないんだろうって…」



零れ落ちる涙。
その涙はひらひらと桜の花びらが散るように、廊下に滴をつけた。


一度分かれた涙は再び一つの涙になる。
恋もたとえるとそうなのかな。

一度気付いた恋は、時に苦しくて諦めたくなるけれど、もう一度頑張ろうと想いが固まる。


涙も、恋も、愛も、
きっとそうなのだろう。

自分の推測だけれど、
こう思いたい。



「あんまり自分を追い詰めるな。追い詰めるとまた気持ちを見失うぞ」



俺の言葉を聞いた明日香は、俺を見つめて微笑んだ。
その表情にほっとする。


「歩くんは、優しいよね。沙紀が本当に羨ましいよ…」



「俺は全然優しくないよ。性格悪いし、相手を傷つけることしか出来ないし…。けど…」




「…けど?」




「沙紀を一番好きなのは俺しかいないよ」




< 133 / 468 >

この作品をシェア

pagetop