歩み
それ以上、理由を聞けなかった。
明日香のことが自分自身を見ているようで、苦しくなりそうだったから。
「私ね、沙紀と司先輩が付き合うことになったとき、沙紀が羨ましかった。けど…憎かったの。何で私じゃないんだろうって…」
零れ落ちる涙。
その涙はひらひらと桜の花びらが散るように、廊下に滴をつけた。
一度分かれた涙は再び一つの涙になる。
恋もたとえるとそうなのかな。
一度気付いた恋は、時に苦しくて諦めたくなるけれど、もう一度頑張ろうと想いが固まる。
涙も、恋も、愛も、
きっとそうなのだろう。
自分の推測だけれど、
こう思いたい。
「あんまり自分を追い詰めるな。追い詰めるとまた気持ちを見失うぞ」
俺の言葉を聞いた明日香は、俺を見つめて微笑んだ。
その表情にほっとする。
「歩くんは、優しいよね。沙紀が本当に羨ましいよ…」
「俺は全然優しくないよ。性格悪いし、相手を傷つけることしか出来ないし…。けど…」
「…けど?」
「沙紀を一番好きなのは俺しかいないよ」