歩み
玄関のドアを開けた人は、どことなく沙紀に似ている女性だった。
強いて言うなら、目だろう。
大きな瞳が笑うと小さくなるのが、沙紀と似ていた。
この人は沙紀の母親に違いない。
「あ、こんにちは。
俺、斉藤歩っていいます。沙紀と同じクラスで…」
言葉が浮かんでこない。こんなの初めてだからかな。
好きな人の母親に会うと、なぜか緊張してしまう。
今、沙紀の前にいるときより緊張している。
変なの。
「もしかして…、沙紀の彼氏!?」
沙紀の母親は、玄関のドアを閉めて、三段くらいある階段を下り、俺に近づいてきた。
近くで見ると、若い気がした。
「え!?俺、彼氏じゃないですよ…」
なぜ、突然こんなことを言ってきたのだろうか。
理由を探そうとするが見つからない。
だから探すのをすぐやめた。
「沙紀ね?最近、よく私に話すの。男の子の話をね。彼氏出来たのかなって思ってて。もしかしてって思ったのよ」
笑顔で娘の成長を喜ぶかのように話す母親。
なぜか、嬉しくなった。