歩み
俺のことじゃないかもしれないけど、嬉しくなったんだ。
「俺じゃないですよ。沙紀は今いますか?」
「そう、残念。沙紀なら部屋にいるわよ。なんか元気ないみたいで、部屋から出て来ないのよ」
心配するような表情を見せて、俺を案内する。
沙紀の家に入ると、自分の家とは違う匂いがした。
俺の家よりずっと落ち着くような、気分が和らぐような、そんな匂いだ。
白い下駄箱の上には、可愛らしい花が飾ってある。
これはきっとドライフラワーだ。
赤とピンクのバラがバランスよく植えられている。
そして奥からやってきたもの。
それは尻尾を振って、遊んで欲しいオーラを出す、ミニチュアダックスフント。
茶色の毛並に、真ん丸な瞳。
そして耳にはリボンが付けられている。
みんなから可愛がられている証拠だ。
「どうぞ?沙紀の部屋は二階の奥よ。寝てるかもしれないわね」
母親はミニチュアダックスフントを抱き上げて、上へ指差す。
俺は靴を綺麗に並べて、軽くお辞儀をし、遠慮なく二階へと行かせてもらった。