歩み
その横顔がとても綺麗で、思わず息が止まってしまうくらいだ。
「…沙紀…」
これしか言えなかった。これ以上言うのは苦しかった。
なんて言ったらいいかわからなくて…。
沙紀は俺の声に気づき、慌ててこちらを向く。
「何でアンタがここにいるのよ!?」
…期待通りの反応だ。
その反応を待っていたよ。
沙紀ならそう言うんじゃないかなって予想はなんとなくしていた。
ついつい笑ってしまう俺。
俺は一歩部屋に入り、ドアを閉めた。
ウサギの人形に、クマの人形。
そして気持ち良さそうな抱き枕。
全てが沙紀が好みそうなものばかりで、笑えてくる。
部屋の中に沙紀が二人いるような、そんな感覚だ。
「何でって…心配だったから来たんだろ?」
「ちょっと!お母さんは!?どこ行ったのよ?」
「なんか誘導してくれたよ」
笑いながら言うと、沙紀は、はぁ…と溜め息を漏らした。