歩み


キミに夢中だったんだよ。
こう言ったら沙紀は「冗談を言わないで」と赤く頬を染まらせ、照れるだろう。


それとも怒るかな?
「いい加減にしてよ」と言って、頬を膨らませるかな?
どっちにしても、可愛いのだけど。



「聞いてるよ。なに?見つめちゃダメなの?」



怪しく笑ってこう言うと、沙紀は下を向いて、俺の言葉を流す。


「はいはい。で、この公式はね?」



俺の発言をさらっと流した沙紀。
まさかの反応だ。
この反応は想定外。



「なんか言えよ!!」



「うるさいなぁ…!」




沙紀が隣にいるのが当たり前になって、俺は自分の価値を確かめられた気がする。
ずっと自分の価値などないと思っていたけど、違うって気付いたんだ。

自分の価値は、
自分の存在は、
沙紀がいるからこそ成り立つものだ、と。



目の前で俺に必死に数学を教えようとしている沙紀を抱きしめて、キスをしたいと思う。


止まれ、俺の欲望。




もう、街には夏がやってきていた。



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