歩み
最近、気温が高くてうんざりをしている。
だからこの冷えきった部屋がたまらなく好きなんだ。
相変わらず、この家にいてもつまらないけど。
でも今日は沙紀がいるから特別かな。
すると突然、部屋のドアが二回ほどノックされた。
「歩?誰か呼んでるよ?富田さんじゃない?」
沙紀は富田のことを知っている。
前に富田に沙紀を紹介したから。
富田は彼女という存在を嫌がらなかった。
俺は沙紀を紹介するとき内心ビクビクしていたのだ。
もしかしたら、富田は沙紀に「今すぐ別れてくれ」と言うかもしれない、と。
その理由は親父にいい顔が出来ないから。
俺に彼女が出来たと親父に報告をしたら、責められるのは富田。
けど富田はそれを恐れなかった。
沙紀に「歩さんをよろしくお願いします」と逆に頭を下げていたから。
それがきっかけとなり、よく沙紀を家へと招いたりしている。
そして親父にはまだ知られていないようだ。
親父は今海外を飛び回っている。
もう何ヶ月も顔を見ていない。
こっちにしては好都合なのだけど。