歩み
「早く私を食べて」と主張しているようなタルト。
甘いモノが嫌いな俺にとって、タルトは唯一食べられるケーキの種類。
それをあえて選んで作るパティシエの顔が頭の中に浮かぶ。
けど、フォークに手がかからない。
沙紀は満面の笑みを浮かべてタルトを頬張っていた。
「おいしー!歩は幸せモノだね!」
おやつの時間が一番いい笑顔を見せているような気がするよ、沙紀さん。
ふと、甘いモノで思い出した。
俺はアレが食べたい。
「沙紀、俺さ、お前が作ったカップケーキが食べたいんだけど」
沙紀の笑顔に負けないくらい眩しい笑顔を沙紀に見せる。
すると沙紀は突然顔を真っ赤に染めて、きょとんとした顔を俺に向けてきた。
「覚えているの?」
「覚えてるに決まってんだろ!!俺が唯一全部食べられた甘いモノがあのカップケーキなんだから!」
「…忘れてると思ってた。しかもあのカップケーキ、初めて作ったから、味には自信なかったの」
沙紀の言葉に違和感を覚える。
『初めて作ったカップケーキ』
ということは、初めてカップケーキを作ったということ?
その相手が俺?
嬉しい。
嬉しすぎるよ…。
「沙紀、口にクリームがついてるよ」
止まらないよ、欲望が。
俺はゆっくりと沙紀に近づいていく。
「ちゅーしてもいい?」
俺を受け入れてよ。