歩み


するとどこからかある人の声が聞こえてきた。
この声は富田の声ではない。
低く、少し掠れた声。


その声を聞いた途端、体が硬直する。



何で?何で、今なの?



ドアノブが俺の手から離れていき、一人で勝手にドアが開いていった。


俺の目に映ったモノ。
それは富田の後ろにいた。



「どう…して…」



言葉が出なかった。
言葉を失ってしまったかと疑ってしまうくらい、頭が真っ白になってしまった。


初めてかもしれない。
頭が真っ白になったのは。
こういうことを言うんだな…。



そこにいたのは親父だった。
ひとつも汚れていないスーツに身を包み、紳士的オーラを出している。
髪の毛は今さっきセットされたのかと思うくらい、乱れていなかった。




「もうすぐテストだろう?この前の成績は富田に聞いた。次はあの順位を取るなよ。」



「は…?」



富田に視線をずらすと、富田は下を向いて俺の方を見ない。
無理してるとよく伝わってくる。


親父がそうさせているのだ。




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